●猫の神様
厳しい藩王と厳しい環境が鍛えるのは、何も人間だけではない。
時にそれは形のないものを生み出すし、人でない何かを鍛え上げもする。
例えば。ただの人が壁を突き抜けて神様と呼ばれる事があるように、猫だって神様と呼ばれる事はありえるのだ。
悪童同盟の夜の守護者と言えば、猫妖精とその友人である猫達だ。
彼らはよき隣人であり、仲間であり、片翼であり、相棒の関係を保っている。
人の目の届かぬ世界をその瞳で照らし、人に聞こえぬ声を聞き分け、人の分からぬ流れにヒゲを揺らす者達。
彼らの中にも、国を守るというただその思いだけで『壁』を超える者がいた。
それはただの猫のようで猫でない、みすぼらしくも立派な何かだった。
猫妖精と猫は、国民を愛していた。
どこにでも現れる彼らは、大好きな人達を見守るために毎日国中を歩き回る。
そうする事で皆が守られると純粋に信じ、ただただ見守り続ける。
そうした思いは本人達の知らぬ間に努力となり、『観る』事に長けた者を生み出す。
遠く遠くまでを視界にとらえる屋根の上で。
大きな眼を弓のごとく細め。
深き夜を底まで見通す、神の如き存在を。
ソレは国民にはただの立派な猫にしか見えない。
いつも12匹の手下を引き連れ、どこかで鷹揚に寝そべる偉そうなボス猫だ。
だがしかし、そこにいるのは確かに高貴な何かだと、国民は無意識に悟っている。
その猫の隣人たる猫妖精もまた、ただの猫妖精とは一線を画す存在であると、皆は既に識っている。
夜になれば手下を使い、ただの猫達には知りようのない事まで知り、人知れず戦う者。
悪童同盟の夜を統べる者、猫達の神。
どこからか生まれたソレは、今日も静かに円卓の猫を従え、屋根の上で尻尾を立てて目を細めている。