核装備Ｉ＝Ｄの開発

核装備Ｉ＝Ｄ黒雷号の開発 †

発覚 †

「あの時核を使用していれば、これほどまでの犠牲が出ることはなかったのだ！」
「我々は、あの時の間違いを二度と犯してはならない！」
リーダー的存在である軍人が「自分達が世界を救う守護者となるのだ」と言わんばかりに演説を始めた。

　ＦＶＢの一件で悪童同盟の議会が核の発射を議決したにも関わらず、使われることなく終わった事に腹を立てていた軍部の強硬派が主体となり、一部の議員が彼らに賛同する形で秘密裏に核装備Ｉ＝Ｄの開発が行われていたのだ。
一部の軍人が文官の介入を嫌って秘密裏に作った、地図上には存在しないはずの建物の一室へと集まった彼らは、開発が遅れている事を確認した。

「しかぁし！封印前に持ち出しておいた核弾頭があっても、それを発射できるものがなければ有事の際に対処できないではないか！」
「まあそう焦るな。失敗すれば我が領土が灰になるかもしれんのだぞ？多少の遅れよりも安全を取るべきだろう」
「そうですな。幸い、今のところ襲撃を受けているのは他国ばかりだ」
「そうも言ってはいられませんよ。いつ我が藩国が狙われるやもしれません」

　妄信的な正義感によって動いている者、藩国上層部への逆恨みが原動力となっている者、自分の身の安全や財を守りたい者、他者を蹴落とす為に力を欲している者が集まり、様々な目的でこの計画は進められていた。
しかし中には扇動するような言葉を何度も聞かされて、逆に消極的になってきた者もいたようだ。
そんな１人が後悔半分につぶやいた。

「核弾頭を撃ったら、一体どのくらいの死者が出るでしょうか」
「人口の密集具合にもよりますが･･･。世界平和を守る為には、多少の犠牲はやむを得ないでしょう」
自信に満ち溢れた回答に皆がうなづいた、その時。

「世界平和を守るためだと！？」
突然沸いた声に驚き、そこに集まった全員が身震いしながら声の主を見た。
「藩王･･･！い、いつの間に！？」
「ドアには鍵をかけていたのに！何故！？」
「おまえたちがいつもここで打ち合わせをしているのは知っていた。だから、はじめっからいたんんだよ！ここにな！！」
「ま、まさか！！」
「話は全て聞かせてもらった･･･。世界平和の為の犠牲はやむを得ないだと？」
怒りのあまり低いトーンでゆっくりと話す声が、固く固く握り締められた拳が、【ふざけるな】という強い意志を物語っていた。

「本気で思ってるなら俺が修正してやる！その程度で理論武装をしたつもりなら、俺を倒してから言うんだな！」
それどっちもあまりかわりません、とツッコミを入れる間もなく、核装備Ｉ＝Ｄの開発を目論んでいた議員達は、１人残らず悪童屋の鉄拳制裁に悶絶した。

「急所は外しておいた･･･。捕り物は終わりだ。お前達はこれから法に従って裁かれることになる」
悪童屋がドアの鍵を開け、警察官を招き入れた。
警察官が議員達を次々と逮捕していく。
こうして、強硬派達の計画ははかなくも打ち破られ、
開発中だった核装備Ｉ＝Ｄとそれに搭載されるはずだった核弾頭もほどなく押収されることとなった。

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仕様 †

悪童同盟にて強硬派議員とそのシンパによって開発された核装備Ｉ＝Ｄ、黒雷号。
ここではその試作型と制式採用型の性能について説明する。

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試作型 †

主武装
・800mm超電磁加速砲(レールガン)（右肩部）

　発見された開発途中の機体を単に組み上げただけのもの。
核弾頭を発射するために長大な砲を装備することとなり、
機体の重量バランスが崩れてしまっている。

　左右の釣り合いを取る予定だった超大型盾や、
電波吸収素材に迷彩塗装を施したステルスマントなど、
多くの装備が計画されていたが実装されることはなかった。
（余談ではあるが、この黒雷号と言う名前はステルス装備を想定したものであり
それが実装されなかったため名前と外見が大きくかけ離れることとなった）

　そのため、核弾頭がなければ単なるデクノボウ状態である。
が、既存型の核弾頭は発射の衝撃や電磁波に耐えられず不発になるとわかり、
また新型核弾頭は核の封印が行われたことにより不可能となった。
これをもって試作型は完全にデクノボウとなることが確定したのである。

　莫大な資金を（裏金ではあるが）投入したこの機体を無駄にしないため、
数多くの大幅な設計変更が行われて制式採用機の完成を見ることとなった。

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制式採用型 †

主武装
・3連装460mm超電磁加速砲(レールガン)（右肩部）
・16連装地対空マイクロミサイルランチャー（左肩部）
・4連装127mm速射砲（左手部）
・5連装40mm7砲身ガトリング砲（右手部）

　発見された機体に各種武装と装甲追加およびバランスの見直しを行い、
陸上二足歩行機動要塞として運用するべく再開発された。

　徹底的に実弾兵器によって武装を固めることによって弾幕を展開する能力を強化し、
陸戦、それも超遠距離～中距離戦に特化した性能となっている。
その他、防御用武装として20mmCIWSや12.7mmマシンガンを機体各所に配備し、
多少であれば肉薄されても対応することができる。

　しかし試作型以上に鈍重な仕上がりになっており、白兵戦闘は不可能に等しい。
また装甲は前面に集中しており背後に回られると途端に脆弱さを露呈する。
さらにその武装数の多さから、機械の補助を得ても多数の操作人員を必要とする。

　さらに、消費する弾薬の量も半端ではなく多大な整備維持コストを必要とする上、
弾薬の多さがそのまま誘爆の危険性にもつながるという危険性をはらんでいる。
（一応機体構造のブロック化等で被害の局限が図られてはいるが）

　それでもこの機体が開発されたのは、素体の開発費を無駄にしたくないという思いと
数ある欠点を補って余りある決戦能力の高さによるといえるだろう。

　また、核兵器こそ装備していないもののこの機の存在に危険を感じた開発チームにより
起動には非常に高度な認証を必要とするシステムが設計された。
その起動キーは、藩王・悪童屋四季が持つ指輪『スイトピーの心』である。
この指輪に特殊なレーザー光を当てると指輪の特殊な分子構造配列によって
量子暗号パターンが生成されることが分かっており、これを起動キーとしたのである。
これは仮に同様の物質を使って複製しても分子構造が同一にならないため、
指輪あるいはその所有者が盗まれない限りはほぼ完璧なセキュリティシステムとなっている。

　逆に言えば事実上この機は悪童屋以外のものが起動できないことになるが、
防衛型決戦機と言う機体の性格上から特に問題ないとされた。

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解析 †

　鋼鉄の巨体を前に、幾人かの技術者と思しき面々が佇んでいる。
全高にして30メートルをゆうに越すこの巨躯は、
先日逮捕された軍強硬派からの情報によって発見された核装備Ｉ＝Ｄである。
正確にはそうなる予定の機体であったが、ロールアウト直前の状態で計画が発覚したため
未だ塗装もされず、武装も装備されていない状態であった。

　また、この機体によってどこかに発射される予定であっただろう核弾頭も発見された。
クーリンガンによって核弾頭が盗まれた際にその数を過大に報告することで、
自分たちが自由に使える弾頭を手に入れようとしたのだ。
幸い機体が未完成だったせいもあってこれらは使用されることなく戻ってきた。
発見された核弾頭は他のものと同様に分解され、厳重に封印されることとなった。

　12発の消えた核、その全ての在処の決着がこれでついたのだ。

　さておき、技術者たちが核装備Ｉ＝Ｄを取り囲んで騒いでいると、そこに二人の男性がやってきた。
摂政のよっきーと兵器開発部のヨルクサである。その姿を見た技術者の一人が数枚の資料を渡すが、
二人はそれを受け取るだけ受け取ってすぐに機体の足元まで歩み寄り、舐め上げるように視線を上げた。
そしてそのまま周囲をぐるっと一周したところでおもむろによっきーが口を開く。

「さて、ヨルクサくん。どう思うね？」
「二本足で歩く列車砲……そんなところか」

　ふむ、と肯いて先ほど渡された資料をぱらぱらとめくるよっきー。
そこには武装と運用のプランについて簡単な説明が書かれていた。
既存の情報をまとめただけのものだが、上手く構成されていて非常に読みやすい。
この資料を作成した人間の愛とも言うものが感じ取れるようでもあった。

「主武装800ミリ60口径超電磁加速砲(レールガン)ねえ。最初聞いたときは正気かと思ったけど」
「あの弾頭を撃ち出すにはそれくらいのサイズが必要だった、というだけだろうな」

　答えたヨルクサが指で示した先には、起爆エネルギーを抜かれ分解作業を待つ核弾頭の姿があった。
大型爆撃機で投下するか、長距離弾道ミサイルで打ち上げるための巨大サイズの核弾頭。
それをＩ＝Ｄから砲で打ち出すためには当然そのサイズに見合った砲の大きさが必要となる。

　さらにこの核弾頭は戦略核、半径にして10km以上を灰燼に帰すというシロモノである。
核弾頭を撃って自分ももろともに自爆するつもりでもあれば別だが、
これを撃って自身が巻き込まれずに居るためには最低でも数十km程度の射程距離が必要である。
おのずと砲身も長くなり、機体重量のほぼ半分を占める巨大な砲が生まれるのである。

　一見無意味に見える（爆撃機で投下すればいいのだから）この設計にも意義はあった。
もともとこの機体はクーリンガンによる低物理域化への対策として考えられたのである。
うかつに近寄れば機関停止して墜落してしまう爆撃機に比べて、
砲で打ち出せば悪くても弾頭が不発に終わる程度で損害はない、というのは合理的な考えであった。

　しかしこのプランには一つだけ致命的な欠陥があった。

「確かに砲としての性能要求は満たしているし、運用プランも悪くないのに……」
「そうだな」
「まさか弾頭のほうがダメで使えなかったなんてね」

　ヨルクサは答える代わりにくつくつとのどを震わせる。
それを気にもせずに言葉を続けるよっきー。

「起爆用レーザーの繊細な照準固定は数百Ｇに及ぶ加速の衝撃に耐えられないし、
そもそも発射時の強烈な電磁パルスによって制御用の電子機器なんか全部オシャカになる。
どだい投下用の爆弾をそのまま砲で撃とうなんて無理な話だったんだ。
設計者もそれが分からなかったわけではないだろうけど……」

　独り言をつぶやきながら思索を続けるよっきーに、何時しか周りからの視線が集まっていた。
別に何かを求める視線ではない。どちらかというと微妙な生暖かさを含んだ視線。
もっと端的に言うとまたあの人の悪い癖が出たか、というようなものである。
やがてその視線に気づいたよっきーが救いを求めるようにヨルクサを見上げると、
知った事か、という含みを持った笑いがくつくつと鳴った。

　ちくしょうこいつら、と思いつつよっきーが話をそらす種を求めて視線をさまよわせると、
一人の若い技術者が団扇がわりに使っていたバインダー、その中の資料に目が留まった。
先ほど渡された資料に、赤ペンで多量の書き込みが追加されていた。
それが持つ意味に気づいて、思わず指差し声を上げる。

「えと……その資料、もしかして？」

　あ、と声にならない声がそこかしこで上がる。
ヨルクサが軽く舌打ちしたのをも聞きつけ、よっきーは状況を理解した。
そう。彼らは内緒でこのＩ＝Ｄを改造しようとしていたのである。
おそらくは核使用を前提としない、単なる重砲撃用大型Ｉ＝Ｄとして。

　覚悟を決めたかのように差し出された赤ペン入りの資料には、
果たしてよっきーの予想通りの改造プランが記入されていた。
それを確認するとため息を大きくつき、額に手をやると大きくかぶりをふった。

「あのねえ君達……」
「いや、あの、そのですね。これはええと」
「あくまでこれは机上の計算と言うか」
「若さゆえの過ちと言うものであることは認めざるを」
「で、電波の命令がですねっ！？」

　口々に言い訳を始める技術者たちを前に、また大きなため息とつぶやきが漏れる。

「誰もまだダメとは言ってないんだが……」

　それと同時に、ぴた、と言い訳の波が止まった。
不安と気体に満ちた空気が流れる中で、今度はヨルクサが口を開く。

「ま、許可取ってからやれって事だな」
「いやまーそーなんだが……君も隠れてやってたクチじゃないのか？」
「とりあえず３プランくらいに絞ってから費用見積もりと合わせて提出。これでいいな？」
「いいけど……」

　おいこら人の話聞けよ、と半眼になるよっきーではあったが、
今までになく威勢よく、雄叫びすら上げている技術者たちのやる気を見ると、
まあこれはこれでいいかと思えてくるのであった。

　その日摂政の個人データベースからある設計書が削除された、というのはまた別の話である。

Ｌ：核装備Ｉ＝Ｄの開発　＝　｛
　ｔ：名称　＝　核装備Ｉ＝Ｄの開発（強制イベント）
　ｔ：要点　＝　機体，核砲弾発射機，一般性能要求｛
　核装備Ｉ＝Ｄはステルス技術を生かしてあらゆるところに死をまき散らし、これによって世界平和を守るための機体である。まがまがしい印象を嫌うものがいたが、かなりの高性能機であり、後に核装備しないバリエーションもうまれた。
｝